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Lee-Byung-hun addicted

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第6話

『釜山で愛を抱きしめて』 第6話

「あれ?ビョンホン君?揺?あんたに会いに行くって釜山に行ったけど。え?まだ会ってないの?そう。携帯ね。トイレに落として壊れたみたいよ。たぶん新しいの持ってると思うけど・・・ま、連絡取らなくても会えるんじゃない?あんた目立つから。その辺に立ってれば寄ってくるわよ。」不二子は電話口で無責任にそういうとゲラゲラと笑った。
その辺に立ってたら揺以外の人が寄ってきて彼女が寄ってきても人垣で見えない・・ビョンホンは電話口で真面目にそんなことを考えていた。
一体揺はどこに行ったんだろう。
ビョンホンが考え込んでいるとドアをノックする音がする。
「母さん・・・まだ起きてたの?」
ビョンホンはドアの外にたつ彼の母を招き入れソファを勧めた。
「お茶でもいれようか」
「あ・・いいわよ。あなただって疲れてるでしょ。お疲れ様。ちょっと顔見に来ただけだから。それより揺ちゃんには会った?」
「え?母さん彼女が来るって知ってるの?」
「ええ。だいぶ前に連絡があって。明後日お昼一緒に食べる約束してるわよ。あら、あなたも来る?あ・・・仕事よね。可哀想に。」オモニはそういうとニヤッと笑った。
(何だよ。また俺だけ知らないのかよ。いつもそうだ・・揺のやつ・・・)揺の気持ちはよくわかっていたが何も連絡を寄こさない彼女にビョンホンは正直ちょっと腹を立てていた。
「で、今夜あいつどこにいるの?」
「何でも友達とどこかに泊まるって・・・」
(友達って誰だよ・・)ビョンホンの頭の中であらぬ妄想が駆け巡る。
「ちょっと・・大丈夫?ぼっとしちゃって。揺ちゃんは大丈夫よ。きっと明日には会えるわよ。」
「ああ・・」
オモニの言葉に適当に返事をしながらビョンホンは今揺が誰といるのか気にしていた。

次の日の朝
よくお礼を言ってチスの家を後にした二人は日本人相手のレンタル店に立ち寄っていた。
「映画祭に来てDVD鑑賞っていうのも何か間抜けだけど・・・まずはやっぱ予習が必要かな。こんなことならどっちか諦めて『甘い人生』にしておけばよかった。美弥ちゃん、一日最高何本映画観たことある?」
「え・・・5,6本ってとこですかね。それ以上観ても麻痺してしまうのでそれが限界ですね。」と美弥。
「じゃ、3本・・いや、時間的に2本かな。立て続けでも楽勝かな?夕べたっぷり寝てるし。」
揺はそういうとニヤッと笑った。

DVDの見られる怪しいカラオケ屋の個室。
「この三本観たことある?」
揺の手の中には「反則王」「箪笥」「甘い人生」3本のDVDが握られている。
「ないですね・・たぶん。韓国映画ってあんまり今まで観たことがなかったので」
「正直・・・貴方が気に入るかどうかはわからない。貴方が好きだと言う映画とは違う部分も多いし。ただ・・同じ匂いを感じる部分もある。全く相反する遺伝子のぶつかり合いも何かが生まれそうな気もするし。私が貴方に紹介したかったのはこの映画の監督。とってもチャーミングな人よ。この3本観てみて興味が湧いたら彼を紹介するわ。
じゃ、始めようか。本当は『甘い人生』から観たいけど・・・」
揺はそういいながら『反則王』をデッキにセットした。
そしておもむろにDVDのスタートボタンを押した。


ジウン監督の講演会は3時からだった。
昼も映画を観ながらダンキンドーナツをかじりバナナ牛乳を飲む。
ずっと画面を凝視し続ける二人の女。
「反則王」と「箪笥」を観終わった時点でもう時計は2時半にさしかかっていた。
「どう?美弥ちゃん。」
「ええ。面白いですね。まあ、遺伝子が欲しいと思うまでいくかどうかわかりませんが是非お会いしてみたいです。」
「そう。良かった。じゃ、行こう。彼の講演会」
揺はそういうと美弥をせかしてカラオケボックスを後にした。

二人が海雲台に着いたのはもう3時になろうかという頃。
慌てて駆け込んでいくとウナが入り口で二人を待っていた。
「ごめん・・ウナさん」拝み倒す揺。
「もう・・・こっちで面倒みてあげられるのもこれが最後だからね。ほら、入って」
そうだった・・ウナは彰介と結婚して日本のファントムの事務局に転勤することが既に決まっていた。こうやって彼女の便宜に甘えられるのもこれが最後か・・そう思うと揺は彰介に彼女を紹介したことを少し悔やんでいた。

一番後ろの席。ハングルの全くわからない美弥に内容を説明しながら講演を聞くにはいい場所だった。マスタークラスは2004年から始まった、映画製作を学ぶあるいはそれにたずさわる人たちを対象に、その道のエキスパートを招いてその話を聞く学術プログラム。
たっぷり二時間半、彼の映画論を堪能した。揺は時々隣の美弥の反応に気を配る。彼女の表情を見て悪くない・・そう思った。

「揺ちゃん、今日の10:30からのパーティーに彼も来るわよ。どうせ、釜山には行けたら行くとか言ってあるんでしょ。」
ウナは帰り際そういうとニヤニヤと笑って揺を肘でつついた。
バツが悪そうに頭をかく揺。
「まあ、そんなところです。じゃ、サプライズってことでお邪魔させていただきます。そうだ。さっき紹介できなくて。こちら今日本でとても注目されている若手映画監督の西山美弥さん。ひょんなことで昨日知り合って。強引につれてきちゃったの。ねえ・・・ジウン監督と・・いいと思いません?」
「あんた・・またそんなこと考えてるの?全く飽きないわね・・でも、まあ、私はそのおかげで幸せだからなんともいえないけどね。・・・いいんじゃない。面白そう。協力できることがあったら声かけてよ。じゃ、夜にまたね。」
ウナはゲラゲラと笑いながらそういうと会場を後にした。
揺は出てくる監督を待つことにする。
「ヒョン。アニョハセヨ~」
数人のスタッフと残って話し込む監督に揺はそう声を掛けた。
「お~~揺ちゃん、何聞いてくれてたの?」ジウンは嬉しそうに言った。
「ええ。しっかり監督の映画論聞かせていただきました。とっても面白かったです。あ、それで今日は凄いお土産持ってきたんですけど。」揺はそういうとニヤッと笑った。
「えっ、何?バケツプリンとか?」
「ううん。もっと美味しいかも。こちら西山美弥監督。監督はご存知ですよね。」
「あ~~~。観た観た。この間。なかなか良かったよね。」
「あ、どうも。はじめまして。ようこそ、韓国へ」
「監督、観光協会の人じゃないんですから。もうちょっと・・」揺は苦笑した。
美弥も横で笑っている。
「あ・・・結構いい感じ?」揺は二人の間に立ちそう感じていた。
30分ほど三人でお茶を飲んで話し込む。
二人の間に共通言語がないというのはとても厳しい・・30分間、揺は自分の無謀だった計画を思い知ることになった。ずっと揺がついているわけにもいかない。美弥を紹介したのは間違いだったのだろうか。
「揺ちゃん、夕飯誘いたいんだけど先約があって悪いね。じゃ、あとでパーティーにおいでよ。あいつも来るから」ジウン監督はニヤッと笑ってそういうと美弥にも会釈をし、その場を離れた。
残された二人。「ごめんね。」と揺。
「何がですか?」美弥が不思議そうに言う。
「言葉わからなくて辛くない?私、最近自分が何人かさえわからなくなってたからすっかり忘れてたの。彼と貴方に言葉の壁があること・・・ごめんなさい。」
「別に気になりませんよ。日本人同士だって言葉通じないときあるし、反対に言葉がわからなくても通じるものもあるじゃないですか。彼の話はとっても面白いです。揺さん抜きでコミュニケーション取れるかっていうと微妙ですけど。」
美弥はそうあっけらかんと答えた。
「あ、そう。そんな感じ。じゃ、大丈夫かな。ハングルはね。覚える気になったら私が責任もって手取り足取り教えるから。あ・・・お腹すいてない?パーティーまでに美味しいもの食べて・・・一本くらい観るっていうのはどうかな。」
揺は美弥の言葉を聞き俄然元気を取り戻した。
「揺さんって面白いですね。」美弥はそんな揺を見て笑っていた。


「なんだ・・ジウン監督の講演会終わっちゃったの?聞きたかったのに。」
講演会の会場となったホテルのエレベーターホールでビョンホンはブツブツ嘆いていた。
取材時間が長引いて結局講演会に間に合わなかったのだ。
降りてきたエレベーターが開いた。
「あれ、今頃来てももうとっくの昔に終わっちゃったよ。」
そう言って笑いながら降りてきたのはジウン監督だった。
「取材が長引いちゃって。監督、上手に緊張しないでできました?」
ビョンホンは笑いながらからかうように言った。
「全く失礼な奴だ・・当たり前だろ。俺を誰だと思ってるんだよ。しょうがねえな。これひとつやるよ。」
ジウン監督はそういうとタバコのパッケージをひとつビョンホンに向かって投げた。
「え~っ、ひとつですかぁ~。」不満げなビョンホン。
「わかったよ。後で部屋にとりにこいよ。」ジウン監督は仕方なさそうにそういった。
「あ、そういえば・・・」
「え?」
「いや・・・なんでもない。」
ジウン監督は今まで揺と上で会っていたことを言おうと思ったがやめた。さっきの失礼な発言へのペナルティーだ。それに会えないでおろおろする二人を眺めている方がずっと面白い。
「お前、夜、パーティーに来るんだろ。俺、彼女が出来そうだから紹介するよ。
しかも・・驚くなよ。超可愛い日本人だ。じゃ、そういうことだから。また後でな。」
それだけ一方的に言い残すとジウン監督は足早に迎えにきていたタクシーに乗って会場を後にした。
「・・・・・・・」残されたビョンホンはわけがわからず来たエレベーターに乗った。
・・・と同時に降りてきたエレベーターが一台。
開いた扉から出てきたのは揺と美弥だった。二人は笑いながら釜山の街に向かった。




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